私的旅

ここ数年、ひとり旅のほとんどはソウルから言われた所に行っていたから、「私」は二の次だった。その中で私なりの楽しみを見つけ、とっても楽しんでいたが、やるべきミッションがあったので緊張感をもちながら、わきめもふらず出発した。仕事だと思っていたので、少なくとも旅の行程の半分以上は私的なものではなかった。

私のための旅をしてみよう。
思いたって出発してみると、偶然の出逢いが楽しいものになった。

私にしては珍しくお寺に行ってみた。
お茶席付きの拝観券をお願いする。お茶席付きがあるとついそれを選んでしまう。茶道の心得はないが、抹茶とお菓子の組み合わせが好きなのだ。
お菓子は食べてみたかった江出の月だった。嬉しい。水色のお菓子の言われを聞いて、海の泡を思い浮かべながら味わう。そのうち、外の方が賑やかになった。住職の話はおもしろいから一緒に聞いていったらいいと、お菓子の説明をしてくれた方が仰る。
本堂の方で、なるほどお坊さんが団体さん向けに話をしていた。次々と澱みなく言葉が出てくる。まるで噺家のような語り口に引き込まれる。
そういえば、お寺のいわれを調べたものの歴史に詳しくないのでピンとこなかったのだ。このお寺は前田利長公の菩提寺、瑞泉寺。私が旅先に選んだのは富山、ここは高岡市だ。
失礼ながら前田利長公を理解しないままにきてしまったが、ご住職がお話しされるお寺に隠されたダビンチコードにすっかりハマってまった。

移動して、高岡御車山会館へ高岡祭りの山車を見にいってみる。レプリカではなく、実物が展示されている。重さが車輪に負担をかけるので、6台を入れ替えで展示しているとのこと。豪華な山車に目を奪われる。
曳山祭といえば、秩父まつり会館に行った事があった。秩父の夜祭の人手の多さは有名だ。高岡は静かでお寺の空気をまとった街だったが、お祭りの日はきっと賑やかになるに違いない。異次元の扉も開いてしまうようなそういう時にもいつかは来てみたい。

「誰と来たんですか?」
「ひとりです。」
ホテルの大浴場に向かうエレベーターの中で少し年上の明るくやさしいご夫婦と一緒になった。
ひとりだと言うと「すごい!」と、ほめられた。聞けばご夫婦はライブ参加のための旅とのことだった。風呂の中でも奥さんとライブのことなど色々楽しく話し、なんだかほっとする。

翌日、出かけた先で今度は富山市在住のおばあちゃんと話すことになる。30年くらい夫の介護をして、子どもは独立、夫が亡くなり、ひとりになったので、30年ぶりに出て歩くことにしたそうだ。「富山に住んでいるのに富山が分からないのよ!だから出て歩こうと思って。」と仰っていた。怪しくみえるかもしれないけど、家に遊びに来ない?と言われる。怪しいとは思っていないけれど、逆に私が怪しい人かも知れませんよ、と返すと、ちゃんと人はみていると言う。丁重にお断りしたが、気持ちが嬉しかった。

帰る日の朝、あのライブのご夫婦に会えた。ご夫婦は車でもうすぐ出発されると言う。私が夕方の新幹線で帰ると言うと、「夕方?すごい!海の方に行くの?いいなぁ。」とまた褒められる。ジュースまで頂いてしまった。
お互い「お気をつけて!またどこかで!」
と、手をふって、ご夫婦を見送った。

旅先で誰かとこんなに話したのは初めてだった。
ミッションの旅では、ピリピリしていたと思う。それがなくなって、ぼけっとしてるから、人が話しかけやすくなったかも、などと考えた。
そういえば少し前に、偶然、アイヌの方と話す機会があった。その方から「トゥレンカムイ」の話を聞いた。トゥレンカムイはひとりひとりの首の後ろにいる神様らしい。私とあなたが今日ここで出逢ったのはトゥレンカムイが今日、ここで、何時に逢うと約束したからなのだそう。儀式でトゥレンカムイにお酒を捧げるのだが、その方は儀式に限らず普段から色んな食べ物をあげていて、トゥレンカムイの好物がわかったのだという。人を集めたい時、好物をあげたら効果的面だったと真面目に、でもおもしろく語ってくれた。神様だけど、相棒のようだとも言っておられた。聞いていてソウルさんのことかもしれないな、と思った。
噺家のような瑞泉寺の住職、住職の噺を通して時を越えて出逢った前田利長公、やさしいご夫婦、アクティブなおばあちゃん。全部、トゥレンカムイの約束で逢えたと考えると不思議で、おもしろい。

ずっと雨続きだったが、帰る日にやっと少し晴れ間がさした。
岩瀬の展望台から、立山連峰がうっすらと見えた。これが見たかった。6月に入っていたが、まだ少し雪が残っている。雄大で美しい。
立山連峰の景色を見たいがために県外から何度も足を運ぶ人もいるらしい。
立山黒部、子どもの頃に家族で旅行に行ったなぁ。大人になって、立山連峰を見たいと思ったら、好きな時に見られるんだよ!と、子どもの私に伝えてみたい。
午後には雲が厚くなってしまい、山はもう見えなくなってしまった。午前中に動いておいてラッキーだった。
雲が厚い午後は富山県美術館へ。旅先でも美術館は落ち着く場所だった。思いがけず、舟越桂さんの作品に出逢い、駆け寄る。舟越さんの作品が好きだ。目が合うことがないあの瞳にあなたは誰?と問いかけられる。初めて見る作品だったが、旅先での出逢いは、懐かしい人に再会したような気持ちになった。

誰かのため、とか、地球と宇宙のため、とかに、おもいが傾きそうになる。
誰か、何かのためは、仕事でもそうだけど、一歩間違えるとそこに依存してしまう。実際、傾きすぎて、失敗したことが何度もある。これじゃダメだ、と、その都度方向を修正する。
今からちょうど10年前、ACSを学ぶにあたって、「まず自分」と言われた時、衝撃的だった。
目に見えないなにかを誰かに分けるとしたら、自分から余った分しか分けられない。
私は私をしあわせにするのが先だ。私のための旅もその一環だ。今は私は私自身を充足させたいと思う。私が誰かの役に立たなくても、私はそのまま存在していていいと心の底から思えるように。

富山は言わずもがな、白エビやホタルイカが有名で、海のものは何でもおいしい。
駅直結のお店の白エビの天ぷら、なんでこんなに美味しいのだろう。お酒がほしくなる。そう!米どころとあって、日本酒もすばらしい!
しかし、しかし、それに勝るとも劣らず、心がおどったのは和菓子だ。特に高岡は和菓子の宝庫だった。こんなにたくさんあるとは!種類だけではない、名品揃いだ。できるなら全部食べつくしたい。

きっとまた富山に来よう。

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