三輪山⑤ 2019年リアルRPGを振り返る

ここは違う。

そうは言ってもこれ以上何もないように見えました。小さなお社から返事はなく、違和感だけが残ります。

これで仕事が終わりのはずがない。
どうしよう、せっかく登ってきたのにこれでは帰れない。
途中で何かを見逃してしまったのだろうか。
そういえばさっきの女性はどこに行ったんだろう。

焦り始めたその時、スカートの女性が山頂の開けた場所に入ってくるのが目に入りました。どこかに寄っていたのでしょう。いつの間にか彼女を抜かしていたようです。女性は小さなお社には目もくれず、脇のほうの草が茂る所に入って行きました。よく見るとそこには道があったのです。
私は咄嗟に後を追いました。

詳しい場所と説明は書くのを避けますが、磐座(いわくら)の周りは立ち入り禁止になっているので入ることが許可されている範囲でのことです。
目にしたのは磐座に向かい、ひざまづき静かに祈る女性の姿でした。

そばには行けない。

人を寄せ付けない、それほど純粋な祈りをしている美しい姿でした。その場で立ち尽くし、その姿を見ていました。やがて祈りを終えた女性が立ち上がりこちらに戻ってきます。必然とすれ違う形になってしまう為、私は会釈をしました。
すると思いもよらず女性が話しかけてきました。

「ちょっといいですか。」
「あ、はい。」
「ここはこのロープの手前ここまでは入っても良いことになっていて…」

戸惑いつつ返事をした私に、なんと彼女は私に磐座の説明をしてくれました。
三輪山では挨拶も会釈程度にするという注意点を知っていて、そこを「ちょっといいですか。」と聞いてくれていたのです。

「そうなのですね。ありがとうございます。実は登りでずっと後をついて行かせてもらっていて。一人で不安だったので本当に助かりました。」
「なんとなくついてきているなって思ってたんです。どちらからいらたの?はじめて?」
「初めてです。埼玉から来ました。」
「え、遠いところから。ちょっと、ちょっと、せっかく埼玉からいらしたのなら、ちょっといいですか。」
「はい!」

そう言って彼女は先ほどひざまづいて祈っていた所まで私を誘います。
磐座に刻まれているものについて教えてくれたのです。

「あの岩のあそこ。少し遠いけどあれです。私はもう見えないのだけど見えますかね。古代では、、、という意味だったようですよ。」

その文字とも模様ともつかない刻まれているものの意味も語ってくれました。
その意味を聞いて、ここで祈ることが今回のミッションだったと理解しました。

「教えてもらって本当にありがとうございます。向こうでお参りしてもぜんぜんピンと来なくて。今お話を聞いてこっちだってはっきり分かりました。」
「みんながパンパンて手を叩いてお祈りしているほうじゃなくて、古代はここで祭事をしていたようですよ。そう言えば、ちょうど昨日読んでいた本にシュメールではあの文字、、、という意味だったと書いてあって。」

さらりと出てきたシュメールという単語に驚きました。
そのあと三輪山に来た理由を聞かれたのでそのお話したり、彼女はこの近くに住んでいて何かの折にはここでお祈りすること、大学生のお嬢さんがいらっしゃることなど教えてくれました。
「そろそろ娘が帰ってくるので帰りますね。ゆっくりお祈りして行ってくださいね。私は時々ここに来ているのでまたお会いできるかもしれませんね。」
そう言って彼女はさわやかに去っていきました。

ひとりになり彼女がしていたようにひざまづいてみました。

つづく。

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